・・・ふっつり。

　最初、そのメールを見たとき、ざーっと血の気がひいた。戸惑い、ってより怒りだったのかなぁ。そしてそれは、さらに加速する。他ならぬ、桃の手によって。

　ことの起こりは昼間。「都内を運転できる自信はなし」というしごく当然の返信がくる。まぁそりゃとーぜんだよなと思いつつ、金曜は雪らしいということで私も断念したところだったからそれはよし。向こうが最初にいっていたとおり、3時くらいに待ち合わせでよいだろうと返事をしておいた。
　夕方、仕事から戻ってみると共通の友人である姉さんからメールがきている。
「金曜って半休とったの？」
　？　それだけではよくわからなかったが、「1日休みですよ」という返事をしておいた。
　そして問題のメールは午後9時すぎにくる。
「それでは金曜は、姉様と一緒に飲みましょう♪」
　……は？
　一瞬、思考がとまりそれからすごい勢いで動き始める。姉様というのは姉さんに違いなく、夕方の姉さんからのメールもこれで合点がいった。
「姉様というと、姉さんのことですね。どこのお店がよいですか？」
「それこそ、私は不案内ですのでお任せいたします」
　こういう時メールって便利だなと思う。こちらがどんな顔色をしていたって、わかるわけないのだから。
「中国茶に飲茶、ケーキ食べ歩き、どれがいいですか？」
「姫（と姉様）の御心のままに！」
　姉さんは事情を知っている人である。彼女にはこの前電話をしていて、金曜に桃とお茶をするとはいってあった。ただ、その時点で待ち合わせなど全然決めていなかったというのと、姉さん自身が今忙しいというので誘いはかけてなかった。姉さんが自ら、茶に混ぜて、というわけがない。そうなると桃が誘ったわけで。
　だいたいの経緯は見えている。姉さんが先日、携帯のメルアドを変えたのでそれの連絡を桃にしたのだろう。でもって桃はそれの返信で茶に誘ってきたに違いない。ここまではいい。久し振りに東京に出てくるんだから、色々な人に会いたいだろうし。
　だが。
　ふと、私と二人きりで会いたくないのか？と思った。なら、最初からお茶自体、OKするなよ。
　またそこはかとなく、つーより大いに腹が立つのは、私が桃を誘わなければ桃は茶すらしようとしないだろうに、姉さんのことは能動的に誘うんだなってところ。
　夏に東京にきたときもそうだったけれど、私の存在って桃にとってなんなわけ？　隣町に住んでいる人間なんじゃないんだよ？　こちらに出てくるときには、時間を作っても会おうって気にならない人間なのか？　……友人だと思ってくれているのかすら怪しいと思った。
　その葛藤もありつつ、それでもメールのやりとりは続く。
「それでは、貢ぎ物を買っていただいてから、お店を探すとしましょう」
「貢ぎ物は却下じゃ！笑」
　…………ぷつ。
「前に買ってくれるっていったじゃないですか」
「そんな昔のこと、年寄りが覚えているわけないっしょ♪爆」
　その瞬間、指はリダイヤルボタンにのびていた。（正確にはこの合間に友人に連絡をいれ、傾向と対策を練ったのだが）
「こんばんわ。先日はお電話できなくてすみませんでした」
「いえ〜」
　これだけメールをやりとりしていたということは暇なはずだ。その決意の元に、話を切り出す。
「買ってくださいね。約束ですよ」
「何をですか。まったく覚えていないんです」
「……。誕生日プレゼント、買ってくれるっていったじゃないですか。今度逢うときに」
「そんなこといいましたっけ。何が欲しいんです？　化粧惑星？」
「ちゃいます。なんでそんな古いこと覚えてるんですか」
「ふふふ。で、なんですか」
「……。お店は見つけてあるので、お連れしますから買ってください」
　いえなかった。ほしいのはブレスレットだって。
　あとは、もう一度時間の確認と、いつまで東京にいるのかをきいてみたりして、賞味5分の電話は終わり。……なんか、毎回短くなっている気がするが。ホント、用件しかはなさないなぁ。
　そうこうしていたうちに、姉さんからもメールがくる。
「桃から茶をしないかという連絡がきて、レイさんは予定たててないのかと思った。私は昼間しか時間がないから茶は無理なんだけど」
　桃と話が微妙に食い違う。こちらにも速攻で電話をする。
　茶の誘いがきた経緯は私が推測したとおりだった。姉さんはそれを見て、結構むっとしてたらしい。でもって、やはり3時の待ち合わせだと30分くらいしかいられないそうで。
　ならばいっそのこと、姉さんの運転で空港まで迎えにいくか、ということに。ただ桃の飛行機の詳しい時間がわからないので姉さんから連絡をとってもらうことにした。
　ここまできてようやく落着いたけれど。
　でもやはり、久し振りに逢う桃と、二人きりの時間を過ごしたかったというのもあり。買い物もね、姉さんがいると桃がしづらいんじゃないかなーとかも思ったり。
　避けられてるのかなぁという疑惑もぬぐえない。
　……だんだん逢いたくない気持ちの方が大きくなってきた。